会いたくてくじけてしまいそうなときには、彼の言葉を思い出す。
「ショートコント、人生」
我ながらうまいこと言ったのではないかと感じた。
「誰かを笑顔にできる人生なら悪くないもんじゃねぇか? ショートってのがちょっと残念だけど。俺の人生なんか長いくせに、人を笑顔どころか悲しませる顔ばっかりさせてるだろうからな。……でも自分が楽しく笑える人生が一番だと思うぜ。○○は自分を大事にしろよ」
会ってしまったらきっと、人として生きる決心が揺らいでしまう。
あんなに大好きな彼を諦めたのだから、誰よりも幸せにならなければいけないのだ。楽しく笑って暮らしていかなければいけないのだ。
*
分娩台からサプライズ、なんてことができるほどの度胸はなかった。子どもの首が座ってようやく、祖国のおじいちゃんに会いにいく勇気が湧いた。
行こうと思えばいつでも行ける距離だからこそ行けない場所だった大きな屋敷には、相変わらず年齢不詳の「自称おじいちゃん」がいた。やわらかな微笑みに肩の力が抜けていく。
「おや、○○さん」
「国民増やしておきましたよ」
「ふふ。それはお疲れさまでした。お元気そうで何より」
上がっていくよう勧められて、彼女は頷いた。母親が靴を脱ぐ間祖国に抱かれた赤子は恐れも知らずに手を伸ばして笑っている。孫娘と呼んでいた彼女が産んだ子だから扱いはひ孫になるのだろうか、着物の衿を掴まれても気分を害した様子はなく、○○は安心して茶菓子を楽しむことができた。
一息ついて、子どもを抱き直す。ずっと気になっていたことを尋ねる覚悟がやっと決まった。
「アーサーさん、怒ってた?」
「どちらかというと、寂しがっているように見えましたね」
「会いにいっても追い返されないかなぁ」
「追い返すだなんて……! 喜びますよ、きっと」
「そうかな。そうだといいな」
あやしてもらって上機嫌な子どもの顔を、友人にも見せたい。
*
「え、そ、そうか……。○○が、結婚……。○○のこと選ぶなんて随分物好きな旦那だな!」
友人が変わっていなさすぎて、彼女は小さく吹き出してしまった。不安になっていたのが馬鹿みたいだ。
「……いや、○○が選んだ男だから、きっといい男なんだろうな。……おめでとう。ちゃんと幸せにしてもらえよ。国民の幸せが、国にとっての幸せでもあるんだからな」
素直じゃないところもそのままだ。「幸せだよ」と答えたら、息を呑む音がした。これでは○○はただのひどい女になってしまう。彼女の目的は他にある。
「アーサーが寂しくないように、孫もひ孫も見せてあげるから」
人間である彼女にできる、最大限の抵抗だった。この生き方なら、3分の2も残っていない砂時計で彼と恋仲になるよりもずっと長い間、友人の孤独を慰めることができる。彼の砂時計の中身が尽きるまで、人として命を繋いでみせようと、死の危険が伴う大勝負を仕掛けたのだ。
泣き出してしまった友人に子どもを抱かせ、○○は快活に笑った。
*
名前:アーサー・カークランド
友達が551人できた
友情の証に謎の食べ物を貰う
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