If story
~朝潮との生活を繋ぐ物語~
これはある奴隷の少女とある町医者の男との物語である。
少女の名はシルヴィ、彼女はある日、商人の男に連れられて町医者の男の家にやってきた。
シルヴィは前居た家の主人に奴隷として毎日のように暴行を受けていたそうだ。
商人からシルヴィを引き取ることにした男は彼女を奴隷としてではなく、自分の娘のように扱うことに決めた。
共に暮らし、優しく接していくことで彼女は男のことを信頼し、次第に好意を抱くようになっていった。
そしてシルヴィと暮らすようになってから数年が経った。
その頃町では疫病が流行り、命を落とすものが多くいた。
しがない町医者といっても医者は医者だ。男は次々に来院する患者たちの治療にあたろうとするが、肝心の治療法がない。できることと言えば患者を看病し、苦しみを和らげる程度だ。
さらに、この病は致死率99%という確実に死に至らしめるというものであり、この時代の医療レベルでは到底治せるようなものではなかった。
ある日、医者である男もこの病に倒れてしまった。無論、シルヴィとて例外ではなかった。余命はもって3日だろうと男は感じた。最早助かる術はなかった。
二人は残された時間を後悔の無いよう過ごすことにした。二人は片時も離れることなく常に寄り添って暮らした。
そしてついに最期の時は訪れた。不思議と苦しみはなかった。互いに手を握り合っている安心感からだろうか。
シルヴィは微笑みながらこう告げた。
『次生まれ変わったとしたら、またご主人様に会いたいです。』
男も同じことを考えていたようで。静かに頷く。
二人は寄り添いながらどこか幸せそうな顔を浮かべ、安らかに息を引き取った。また出会えることを信じて。
あれからどれほどの時が流れたのだろうか。時代は変わり、かの疫病大流行は歴史的大事件として刻まれることとなった。
ここはある日本の鎮守府。背の低い少女が大きな扉の前に立ち、ノックをする。
「失礼します。」
彼女は朝潮。在りし日の艦艇の魂を持つ少女、艦娘の一人だ。容姿はどこかで見たことのある少女だ。
「司令官、おはようございます。本日もよろしくお願いします!」
司令官と呼ばれた男は彼女の挨拶に爽やかな笑顔で返す。司令官の顔もどこかで見たことのある男だ。
そう、この二人は知らないが、シルヴィと町医者の男の生まれ変わりなのだ。記憶こそ受け継いではいないが、運命が二人を繋いだのだ。
二人のあの誓いは時を越えて果たされたのである。
今現在、朝潮が秘書艦の生活が続いているのである。
~END~
If story~朝潮との生活を繋ぐ物語~後書き