ぞくり。

その時急に背中に突き刺さったのは、ナイフじゃなくて、物ですらなくて、それよりももっとザワザワして粘着質な。
…何と言えばいいんでしょうか。
殺気というか。
邪気というか。

ああ、センパイは怒っている。
おまけに不安でどうしようもないんだきっと。
だからこんな、どこに向けたものかわからないどす黒い雰囲気を放っている。

敵に捕まった間抜けな部下に怒っているわけではないでしょう。
あの男を死体にした連中に怒っているわけでも。
あの男が受けたような仕打ちを、例の彼女が受けている。
…のを想像し、その想像の中の相手に鬱屈した怒りを抱いている。
でも、それも認めたくないんですか。
何事もないかのようにしている、そのいつも通りの薄っぺらい声が白々しい。
振り向けばそこにはなんでもないように涼しい顔をしたベルセンパイがいて隊長と雑談しているだけのはずなのに、センパイの放つ空気が怖くてミーは振り向く事ができませんでした。

センパイは、そのくらいわかりやすく気分を害していたのに。


2年9