「懐かしい名前だな…」
その人はそう呟いて、どこか遠くを見るような素振りを見せた。
前髪で隠されていて瞳は見えないけれど。
口元に笑みを浮かべたまま、その人は、「ベル」と、先輩の名前を反復した。
「出来損ないの名前でオレを呼ばないでくれる?」
え。
出来損ない、って言った。
ベル、先輩が、出来損ない…
ヴァリアー一の天才と謳われる彼が、出来損ない。
「胸クソ悪くなるんだよね、その名前で呼ばれると」
その名前で呼ばれた事が、あるのか、この人は。
「父親も母親も、オレらの区別が付かなくてさ。
よく間違えられたっけ。
しょーがないから着る服の色変えてさ、判別できるように。
あんなのと一緒にされちゃたまんねーよ。
あんな、」
あんな出来損ないと。
と、その人は忌々しげに口元を歪めて笑う。
嫌だ、やめて、そんな風に言わないで。
「ベル先輩は出来損ないなんかじゃ」
と、言いかけた瞬間に、目の前の彼の視線が私の目に突き刺さった。
瞳は見えないのに、痛い程感じる。
鋭利なナイフのような、凶暴な視線。
「出来損ないなんかじゃ、ない」
威圧する目線をはねのけるように、私は言った。
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