お姫様は王子のキスで目覚めるのがおとぎ話の定石だけど、あんな別れ方をしておいていきなりキスもないな、と思って、オレは踏みとどまった。
そして、その眉根に触れた。
そんなしかめっ面してんなよ、って。
お姫様は、一瞬目をぎゅっとつぶって、少しだけ眠たげな声を漏らして、そして、うっすら目を開けた。
彼女の目が、オレを映した。
まだ夢を見ているような顔をして。
「…ベル…?
え、何?夢?」
案の定。
「夢じゃないよ。
オレはここにいる」
しばらくぼんやりとした顔で、オレを見る。
そして、がば、と跳ね起きた。
「ベ…」
言いかける彼女の口を、そっと手で塞いだ。
「言わないで」
多分、この子は謝罪の言葉を口にする。
オレを傷つけたと思ってるんだから。
でも、この子が謝るべきことじゃない。
「ごめんな。
本当は、まだお前のそばにいたかったの。
お前はまだ、オレが好き?」
口を塞がれたまま、こくこく頷く。
そして、口を塞ぐオレの手を掴み、口から放し、言った。
「待ってた!!」
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