暗い夜道を通り抜けて、辿りついたのはアイツんちのベランダだ。
…完全に不法侵入者だ。
と思ったけど、アイツんちに出入りする時は、いつもここから入ってたから、染み付いた習慣でこっちに来てしまった。
玄関先じゃ人目について、アイツが困るだろうから、ここからこっそり忍び込むようにしてた。
初めてここから入った時は、「なんでそっから?ていうかどうやって?」って大騒ぎされたもんだけど。
…でも、こんなとこ来てどうするつもりだ。
今更会うわけにもいかないのに。
このガラス一枚とカーテンとを隔てた先に、アイツがいる。
そう思うと、それだけで胸が高鳴る。
愛しさと…もう会っちゃいけないっていう警告のように。
透明なガラスに、そっと触れてみる。
冷たい。
ほんの少しだけ、指先に力が入ってしまった。
開けるつもりなんてなかった。
でも、そのガラス戸は、いとも容易くわずかに動いた。
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