新造
「・・・・・・」びくびく
ゆうぎり
「ほれ、挨拶しなんし」
新造
「新米の・・・お福です」裏声
女衒
「《声色も努力しろよ》」
ゆうぎり
「やはり訳ありでありんしたか」
女衒
「《話が早くて助かるよ。要は借りたものを返せって話だ》」
お福
「い、嫌です・・・」裏声
女衒
「《もう普通に喋れよ》」
ゆうぎり
「どうして返したくないんでありんすか?」
お福
「私には・・・使命がある」
女衒
「《果たせばいいさ。残る余生でな》」
お福
「それでは時間が足りぬのだ!」
ゆうぎり
「よもや返して欲しいいうんものとは・・・」
女衒
「《不老の力だ。不死とまではいかないがな》」
ゆうぎり
「なるほど・・・その力を返してもらって、わっちに与えるつもりでありんしたか」
女衒
「《そうだ。ゆうぎり・・・俺はな、お前と永遠の時を生きていたいんだ》」
ゆうぎり
「わっちはそこまで望んでおりんせん」
女衒
「《分かってくれ、ゆうぎり。俺はお前が老いていく姿は見たくない》」
「《かといってお前を諦める事もできない。他の男に渡すのは死んでも嫌なんだ》」
ゆうぎり
「そこまでわっちを愛してくれるのは嬉しおすなあ・・・」
女衒
「《なら》」
ゆうぎり
「けどそうなったら、この方はどうなりんすか?」
女衒
「《心配するな。命までとるわけじゃあない・・・普通の人間として寿命を迎えるまで生きていくだけだ》」
お福
「い、いやだ・・・」
女衒
「《二千年以上も生きてまだ執着するというのか?》」
ゆうぎり
「いいえ、この方には使命があるとおっしゃっておりんした」
お福
「!?」
ゆうぎり
「その気高い使命を棄てさせてまで・・・わっちは生きてはいられまへん」
女衒
「《こいつをこの場で殺して力をお前に与える事だってできるんだぜ?》」
ゆうぎり
「そんなことをしてみなんし!わっちはすぐさまにでも自決しますえ!」
女衒
「《なんだとぉ・・・》」
ゆうぎり
「不老の力であっても死なないと・・・主様がおっしゃってましたな」
女衒
「《くっ・・・》」
ゆうぎり
「主様、それでも納得できんいうなら・・・この場でわっちの方を殺しなんし」
お福
「なっ!?」
女衒
「《自分が何を言っているのか分かっているのか?》」
ゆうぎり
「あい・・・わっちはこれまで充分すぎるほど幸せでありんした」
「愛した男に抱かれ、一つの遊郭に留まらず日の本を共に旅し」
「およそ花魁というだけでは成し得ない経験をさせてもらいました」
「そんな殿方に殺してもらえる・・・これ以上の事はありませんなあ♪」
女衒
「《お前がこいつと会ったのは今日が初めてだろう?なぜそこまでする》」
ゆうぎり
「たしかに今日限りです。けど使命があるとおっしゃいました」
「死にたくない、生きていたいという事を聞いてしまいました」
「そのうえで見殺しにしてしまったら・・・わっちの誇りが死んでしまうんです」
女衒
「《誇りだと》」
ゆうぎり
「憶えておりんせんか?わっちを初めて抱いてくれたときのことを」
女衒
「《!?》」
ゆうぎり
「主様は誇りのないわっちであっても愛してくれるでありんすか?」
女衒
「《言いたい事は分かった・・・覚悟はとうの昔から決まっていたんだな》」
ゆうぎり
「・・・・・・あい」
女衒
「《ならばその覚悟に応えよう・・・俺の手で、死んでくれるか?》」
ゆうぎり
「望むところです」
お福
「だ、だめだ・・・」
女衒
「《ここで殺さず生かし続ければ俺の決断は必ず変わるだろうからな》」
ゆうぎり
「わかっておりんす」
最期に・・・