ヴ「当然だ。いつまでも異教徒の下にいるわけにはいかないではないか」
ヴ「ただ、余が即位した時点ではトルコと戦えるような力は到底なかったのだ。さらに国内の貴族は腐敗していたからまずはその腐敗貴族を一掃して国内を立て直すところから始めなければならなかった」
青葉「ふむふむ…。具体的にはどんなことをやったんですか?」
ヴ「敵対する大貴族を討伐し地方に散らばる権力を中央に集め、さらに腐敗しきっていた貴族を処刑した。またトルコの侵略によって長らく失っていたワラキア公国直轄軍を編成し、軍制改革を行った」
ヴ「さらに武力とは別に経済的な侵略によって我が国の富を奪い国土を荒廃させてきた原因の一つであるザクセン人を追放し、国内の産業を育てることで疲弊した国力を回復させようとしたのだ」
青葉「なるほど、中央集権化を進めて国をまとめようとしたのですね。……でも、トルコも黙ってはいなかったんじゃないですか?」
ヴ「無論、黙っているはずが無かろう。トルコへの貢納を取りやめた際にトルコから来た使者はそれはもう居丈高に我らを叱責してきたのだ」
青葉「それで、その使者さんはどうなったんですか?」
ヴ「処刑した。余に無礼を働いたのだ、当然であろう」
ヴ「この事件にオスマントルコは激怒した。自らの使者を殺されたのだから当然と言えば当然ではあるが」
ヴ「これまでもワラキアとオスマントルコによる小競り合いはあったが、この時はそれまでの比ではなかった」
ヴ「この機会に我がワラキアとモルダヴィア、トランシルヴァニアなどの東欧の国々をもろともに呑みこむために時のスルタン『征服者』メフメト二世自らおよそ十五万の兵を率いてきたのだ」
ヴ「これを迎え撃つべく余は一万の兵を率いて迎え撃った」
青葉「……正直、勝ち目がまるでなさそうに聞こえるのですが、どうやって戦ったのですか?」
ヴ「焦土作戦を行ったのだ。民をカルパチア山脈へ逃がし、首都を空にして迎え撃った」
青葉「焦土作戦とは、なかなか思い切ったことをしたんですね…。具体的にはどんなことをしたんですか?」
ヴ「川の水を引き込んで沼沢地を作り、村に火を放ち、窪地を落とし穴に作り替え井戸に毒を放り込んだ。山に火を放って行軍途中の食料確保を困難にさせたりもした」
ヴ「もっとも、こんなものは序の口ではあるが。さらに結核や赤痢、ペストなどの感染病を患っている病人に槍を持たせて夜襲させ見事士気を落とすことに成功した」
青葉「見事に人の“恐怖”をついていますね。オスマン側はどのように対応していたのですか?」
ヴ「本隊の進軍が思いのほか進まないのをみてオスマン帝国水軍を本隊から分離し、ワラキア北東部にある貿易街ブライラの襲撃に向かった。おそらく我らの街を略奪しこちらの士気を落とそうと考えたのだろうが、しょせんは唯の浅知恵にすぎん」
青葉「? どういうことですか?」
ヴ「オスマン帝国水軍はドナウ川沿岸の警備をしていたが、ブライラ襲撃によってがら空きになった。さらにドナウ川対岸のオスマン帝国領ブルガリアには十五万の軍隊を支える補給物資が置いてある」
青葉「…焼いたんですか?」
ヴ「当然だ。余自らが少数の兵を率いて襲撃し集積されていた軍需物資を焼き払い、さらに町に火をつけて撤退した」
青葉「これで撤退してくれた…わけではないんですよね……」
ヴ「完全に補給線を破壊したわけではないからな。ドナウ川の補給線は破壊したものの黒海の補給線はいまだ無傷ではあったが、これで士気の大幅低下を期待することができる」
ヴ「余は此処が好機と見て、自ら兵を率いてスルタンの首を取るべく夜襲を敢行したが…スルタン直属の親衛隊であるイェニチェリに阻まれ失敗した」
青葉「ありゃ…。ふと思ったんですが、ここまでされても軍隊は崩壊しないんですね」
ヴ「忌々しいことではあるが、あの侵略者共にとっては異教徒を征服するための“聖戦”だからだ。故にどんなことがあってもスルタンは撤退を選ばなかったのだ」
ヴ「―――侵略者共が首都に到着した時はさぞ喜んだことだろう。何せ城門は開き無血開城していたのだ。余の作り上げた最大の策とも知らずにな」
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