狐「青葉さん、ここに来る前に少しは私のことを調べたんでしょう?」

青葉「は、はい。確か最初は藻女という名前で子供に恵まれない夫婦の元で育てられ、鳥羽上皇に見初められて宮廷に行き……」

青葉「鳥羽上皇が病気に伏せたときに陰陽師が占った結果、人ではないとばれて宮廷から追い出された……大体の流れはこんな流れでしょうか」

狐「まあ大体そんな流れです。先ほどあなたは『阿部姓の陰陽師』と一大バトルを繰り広げた…とおっしゃっていましたが別にそんなことはないんです」

青葉「ほうほう」

狐「まずは私がなんなのか、というところからお話しましょう」

青葉「…?えっと、玉藻の前ではないのですか?」

狐「それはこの姿での呼び方です。まあ別に間違っちゃいませんが」

狐「まあ、端的に言いますと、天照大神の表情の一つと言っていいでしょう」

青葉「え…?それはあなたが天照大神其の人ってことですか?」

狐「いえ、あくまで私はその大元からわかれた分霊のようなものです」

狐「あるとき、大元の私は天から人間を眺めていてこう思いました。『何であの人間たちは楽しそうなんだろう』と」

狐「幸せな、楽しそうな要素は何もないように見えたのに、それでも楽しそうで。だから私は、人間に興味を持ったのです」

狐「そして大元の私は自身の一面を記憶を封じて転生させました」

青葉「なるほど…そして藻女として生まれ変わったのですね」

狐「ええ。そこから先は大体伝承と同じです」

狐「で、先ほどの質問ですが…阿部の野郎とは戦っていません」

青葉「ありゃ、戦ってないんですか?」

狐「そもそもあの時の私はただの可憐な女の子ですし?当世最高と謳われた陰陽師と戦えるわけはないでしょう」

狐「宮廷はもう蜂の巣をつついたような大騒ぎになりまして。私は取るものも取らずに命からがら逃げだしました」

狐「そうやって下野国の那須野まで逃げ延びまして…那須野の原まで来たときに狐が寄ってきたんです」

狐「『お疲れ様でした』『さぞや苦労を為されたでしょう』っていいながら。そこで私は自分が何者かを思い出しました」

青葉「…」

狐「もうこの後は伝承と同じです。朝廷は那須野に逃げた私を討伐するために八万からなる軍勢を派遣してきました」

狐「そりゃあもう壮観で。那須野にて決戦におよび一度は軍勢を全滅まで追い込みました」

青葉「話し合いとかはできなかったんですか…?」

狐「言い訳になってしまいますが私も弁明したんですよ?でも、私の言葉なんて誰も聞いてくれなくて」

狐「私も反省をしていましたし、二度目は話し合いをしようと試みたんですがねー」

狐「三日三晩矢の雨が降り続けて、だれも私の声が聞こえなかったみたいです」

狐「結局は。神仏への崇拝で、人が神に近づこうとしても神にはなれないように」

狐「―――神もまた人間にはなれる筈がなかった。そんなことに最期まで気付かなかった、愚かな神の話でした」



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