青葉「ふむふむ、ラムレイですか。何でラムレイなんです?」
乳上「今の私にとって、この子が一番合っているからだ」
乳上「今の私はイングランドに伝わる悪霊の集団『ワイルド・ハント』の頭領、主であるという側面も持つ」
青葉「たしか、ワイルド・ハントの主とされるのは北欧神話の主神オーディン、東ゴート王テオドリック、伝説的な海賊フランシス・ドレイクと……悪霊化したアーサー王、でしたか」
乳上「ああ。他にもデンマーク王だったヴァルデマー四世やノルマン人に抵抗したサクソン人の富豪エドリック等も言われるがな」
青葉「それが何でラムレイが合っているということになるんですか?」
乳上「他の二頭と比べて武勇にたけているのでな、故に聖杯に選ばれたのだろう」
青葉「馬が武勇、ですか?」
乳上「スノードンという場所を知っているか」
青葉「えっと、ちょっと待ってくださいね…っと。ウェールズとイングランドの国境地帯にある山のことですか?」
乳上「そこにあるバルフォグ湖にはアダンク…アーヴァンクともいわれる怪物が棲んでいた。その怪物は人を食ったり洪水を起こしたりといったことを繰り返していたのでな、私が討伐に行ったのだ」
乳上「その際にラムレイはこの怪物を湖から引きずり出した。今でもラムレイの足跡は湖畔に残っている」
青葉「なるほど、そうだったんですねえ」
青葉「では次に行きましょう。『
最果てにて輝ける槍』を、かの聖人を刺した槍『ロンギヌス』と同一視する説があるようですが、本当のところは!?」
乳上「あの聖人を刺した槍とは関係などない。確かに同一視する者もいるようだが」
青葉「あれ、無いんですか?」
乳上「そもそもあの聖人を刺した槍はギャラハッドが持って行っている。私が持っている筈無かろう」
青葉「じゃあその槍は誰が作ったんです?もしくは誰からもらったんです?」
乳上「この槍は父ウーサーから引き継いだものだ。作ったのは鍛冶師グリフィンだと聞いているがな」
青葉「なるほど…でも普通の槍ではないんですよね?宝具ですし」
乳上「当然だろう。そも、この槍はいまだこの世界に存在するのだ」
青葉「どういう意味です?」
乳上「そのままの意味だ。この槍は世界の最果てにて、この世界をつなぎ留め続けている」
青葉「『世界をつなぎ留め続けている』とはどういうことです?何とつなぎ留め続けているのですか?」
乳上「現実世界たる人間の世界と、世界の裏側である神代の世界をだ」
青葉「神代の…世界?」
乳上「元々この世界は神や悪魔、精霊や竜が多く存在していた。だが時代が進むにつれて『神秘』は薄れ、そうした幻獣などは肉体を捨てて現実世界たるこの世界から姿を消し世界の裏側へと移っていったのだ」
青葉「幻獣って、ヒポグリフとかですか?」
乳上「ああ。ヒポグリフやペガサスがこれに当たる。さらに上の『神獣』は『怪物たちの王』テュポーンや『白鯨』モビー・ディックなどがそうだ」
乳上「このクラスになると、我ら英霊でも太刀打ちできないほどの化け物になる。間違っても挑もうなどとは思わぬことだ。……尤も、そのような機会は無いだろうが」
青葉「じゃ、じゃあ、もしこの槍を引き抜いてしまったら…」
乳上「物理法則で作られたこの世界は崩壊し、現実は世界から引き剥がされる」
乳上「そして、遥か過去のものとなったはずの幻想法則が再び現れてこの世界は神代に逆戻りとなる。つまり、我らですら歯が立たぬほどの神獣や竜が跋扈する世界になるというわけだ」
乳上「神代の人間ならいざ知らず、脆弱な現代人では対抗できぬだろう。……深海棲艦などと比べるな。あのていどなら神代には腐るほどいたのだから」
青葉「……(ゴクリ)」
青葉「じゃ、じゃあそのような大事なものをなぜアルトリアさんが持っているんです?」
乳上「私がこれを持っているのは、父から引き継いだということもあるが私が『神代の最後』を飾った王だからだ」
青葉「神代の…最後?」
乳上「神代は紀元前四千年に『とある王』の手によって終焉が決定づけられた。さらにイスラエルの王ソロモンが死んだことにより『神秘』は加速度的に減少していき西暦の始まりと共に世界から喪失することになる」
乳上「此処日本や我らがいたブリテンなどの島国にはしばらく残っていたものの、私の死とともに完全に世界から喪失することになる」
青葉「なるほど、だから『神代の最後を飾った王』なのですね」
乳上「そういうことだ。……他に何かあるか?」
青葉「いえ、私からの質問は以上です。有難うございました!」
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