ラ「さて、スペイン艦隊は1588年4月29日にリスボン港を出発して英仏海峡に向かった。アタシ達は先制攻撃を加えるためにプリマス港を出てイベリア半島とフランス沿岸にまたがっているピレネー湾まで南下したんだが…運悪く強い南風が吹いていて撤退するしかなかった」
ラ「7月21日の夜にスペイン艦隊を発見したため、アタシ達はスペイン艦隊の風上に移動して艦隊の右翼後方から夜明けとともに砲撃を開始した。さらに左翼後方の船隊に攻撃を加えたんだが結局決定的な打撃を与えることはできなくてな、2時間ほどで撤退することになった」
青葉「いよいよ海戦が始まったんですね!さしずめこれは前哨戦ってところですか?」
ラ「ああ。イギリス艦隊には特筆するような損傷はなかったんだがスペイン艦隊のサン・サルバドル号が事故により爆発炎上し、アンダルシア船隊司令が座乗していたヌエストラ・セニヨーラ・デル・ロサリオ号が衝突事故を起こして航行不能になり結局サン・サルバドル号は沈んだんだが」
ラ「サン・サルバドル号はどうも金庫を積んでいた会計艦だったらしくてこの後の士気がガタ落ちしたらしい」
青葉「話を聞いていて感じたんですが…スペイン側は結構不運に見舞われてますね…」
ラ「はん、アタシ等を舐めてかかってきた付けが回ってきただけさ」
ラ「その日の夜、アタシがランタンを照らして先導しつつスペイン艦隊を追ってたんだが所属不明艦を発見したんでランタンを消して艦隊を抜けたのさ」
青葉「えっ!?そんなことをしたら大変なことになるんじゃないですか?」
ラ「うん?確かにイギリス艦隊は少々混乱しちまったがね。そのかわり漂流していたロサリオ号を捕捉して座乗していた提督を降伏させ、スペインの計画の情報も一部とはいえ手に入れたんだから上々だろ」
ラ「ま、あとでフロビッシャーっていう男から非難されたが些末なことだ」
ラ「混乱した艦隊を統制し、丸一日かけて無敵艦隊を追撃し29日にポートランドの沖で追いつくことに成功した」
ラ「本隊を率いていたハワードと無敵艦隊が交戦し、苦戦をしていたものの風向きが変わるのを待っていたアタシが増援にむかい盛り返したんだが、有効な打撃を与えることができなかった」
ラ「ああ、それとさっき名前が出たフロビッシャーだが、この戦いでガレアス船隊と交戦してもはやガレアス船が帆船に勝つことはできないと証明したな」
青葉「ふむふむ…なるほど、一つの転換点でもあるんですね」
ラ「さらに東に逃れた無敵艦隊はワイト島で一時的に停泊して休息を取りつつ、ダンケルクで待機していたパルマ公率いるイギリス侵攻軍からの知らせを待っていた」
青葉「そこを襲ったんですか?」
ラ「ああ。アタシ等はここで全面攻撃を仕掛けたが、アタシ等の大砲はかなりの長射程を持っていたがいかんせん威力が低くてねぇ。結局ここでも決定的な打撃は与えられなかったのさ」
ラ「結局取り逃がしちまったんだが、スペイン側ももはや安全に休息できる港もなくなりさらに北東のカレー沖にてイギリス侵攻軍と連絡を取り合って合流する予定だったが、ネーデルラント海軍によって海上封鎖され合流することができなかった」
ラ「そして何より、この時密集していたからねぇ。その日の夜にピッチやタール、木屑や弾薬など燃えやすいものを満載し、鎖でしっかりと繋がれた火船を密集していた艦隊にぶつけたのさ」
ラ「さすがに全部命中とはいかなかったが数隻が命中、艦隊は大混乱に陥った。密集していたせいで衝突があちこちで起きていたし、何よりあわてて動き出したもんだからほとんどの船が鎖を斬っちまったもんだからもう止まれなくなっちまった」
ラ「この時の戦果としては船隊の旗艦を制圧し、無敵艦隊をほぼ壊滅させたことだろうな」
ラ「スペイン艦隊はバラバラになり潮に乗って北東に流されアタシ達も追撃し、翌朝グラヴリンヌ沖で最後の戦いが始まった」
ラ「これまでの戦いと先の戦いで鹵獲したロサリオ号を検分した結果スペインが白兵戦を主戦略としている事は分かったから、あえて敵に無駄玉を撃たせてからこちらの攻撃を始めたのさ」
青葉「ふむふむ…」
ラ「こうすることで弾を撃ち尽くして無防備な艦隊を一方的に攻撃することができるってわけだ。この戦いで11隻ほど沈め、午後四時ごろには無敵艦隊の陣形は崩れ敗走を始め、追撃したんだが土砂降りが起きたせいで取り逃がしちまった」
ラ「翌日再び追撃を始め、スコットランド沖まで追い回したな。8月2日だったか」
ラ「アタシ等はここで追撃をやめて帰投したがスペインにとってはここからが地獄でな、慣れない外洋とスコットランド及びアイルランド付近の海岸線を知らなくて大量に難破したらしい」
ラ「アイルランドに上陸した後はイングランド兵と地元民に大量虐殺されたようだ。結局生きて帰れたのは約半数、港に到着した途端沈み始めた船もあったらしいぜ」
青葉「なるほど…スペインはもう無敵艦隊を再建することはできなかったんですか?」
ラ「いや、時間はかかったが艦隊を再建することはできた。だがアゾレス諸島沖でオランダ艦隊に敗れ、さらにイングランドにも無敵艦隊を送ってきやがったがすべて負けてしまっている」
ラ「ま、何より『太陽の沈まない国』とか名乗ってた奴にとって二流以下だと思っていたイングランドに負けるのは我慢ならなかったんだろうさ」
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