ラ「そうさ。当時のイギリスは金が無くてねぇ、海賊に免状を渡してスペインの貨物船を襲ってたのさ」

ラ「中にはスペイン王室の財宝なんかを積んでいる船もあってな、これがなかなかいい稼ぎになってたってわけだ」

ラ「ま、他にも前女王の処刑やらスペイン支配下のネーデルラントの反乱を支援したりしてピリピリしているときにこれだ。女王陛下は戦争を回避しようとギリギリまで工作していたらしいがな」

ラ「さて、そんなこんなで戦争は避けられなくなっちまったんだが…当時のイギリス海軍は貧弱で、まっとうに戦っても勝ち目は薄い」

ラ「じゃあどうするか、と為ったらあとはもう正道から外れた戦法を使うしかない。そういうわけでアタシ達が艦隊を率いることになったわけだ」

青葉「なるほど…戦力で劣る以上、奇策に頼るほかなかったんですね。具体的には何を?」

ラ「スペインは天然の良港であるカディス港で物資の荷揚げやらなにやらを行っていた。だから、襲った」

青葉「襲ったんですか?」

ラ「ああ、準備妨害ってやつさ。二十隻以上の船を焼き払い、何隻かの船を捕獲した。さらにポルトガル沿岸もついでに襲って小型の船を百隻ほど焼き払ったのさ」

青葉「その作戦の効果は大きかったんですか?」

ラ「抜群だったさ。何せ連中、樽や食料保存に使う樽材が燃えて無くなっちまったもんだから生乾きの木を使ったんだが、水がしみ出してしまって飲み水が無くなっちまったり食べ物が腐ってしまったのさ」

青葉「スペイン側はこれを防ぐために出てきたんですか?」

ラ「そりゃそうさ。さっきも言った通りカディス港には大量の軍需物資があったから連中も必死だったよ」

ラ「ただスペインの旧式のガレー船ではイギリスの最新型のガレオン船に全く歯が立たなかった。結局港を守れず大量の軍需物資を失ったから計画の大幅変更されることになった」

ラ「ま、勝利の要因としてはこれが一つあるだろう。そして運がいいことに『スペイン海軍の父』と言われていたサンタ・クルス公が急死した」

青葉「どんな人だったんですか?」

ラ「非常に優秀な海軍提督でな、ガリシアでフランス海軍を撃破しレパントでは精強を誇ったオスマン帝国海軍を破った」

ラ「イギリスへの無敵艦隊派遣もこの男が計画していたのさ。まあこの男が死んじまったもんでその代りに任命された男がメディナ・シドニア公って言うんだが…またラッキーなことにこの男、艦隊の総司令官になったくせに海戦の経験がないと来たもんだ」

ラ「参加船舶数百三十隻、総兵数が三万を超える大艦隊の総司令官がこのありさまだぜ?さすがに笑っちまうよなぁ」

青葉「でも、何でそんな人が司令官に選ばれたんでしょう?他にいい人はいなかったんでしょうか…」

ラ「何でもスペイン国王のフェリペ二世はこの男が名家出身であること、そして無事イギリス艦隊を撃破したらそのまま上陸して陸戦に移行するために選んだらしい」

ラ「ま、結果まけてりゃ世話ないがな。一応優秀な海軍軍人を補佐役として付けていたみたいだが」

青葉「なるほど…」

ラ「で、だ。勝利の要因の一つとして船の違いと想定していた戦場の違いがある」

ラ「イギリスは金が無かったが、スペインの船を襲った時に得た財宝をもとに艦隊の整備を進めていた。そんな時に新たに任命されたジョン・ホーキンスという男が船の設計方針を改めて、船体を細長くして船首にある楼を小さくして船の後方にも作ったのさ」

ラ「結果としてそれまでの船よりも安定して、より多くの砲台を積めるようになった。さらに大砲もそれまでの鉄製から青銅製に変えた」

青葉「? 鉄製から変えて何か変わったんですか?」

ラ「射程と命中率が良くなった。これにより長距離砲撃戦に持ち込むことができるようになったってわけだ」

ラ「それに対してスペイン艦隊は基本的に波の穏やかな地中海での戦闘が中心だったから、帆船ではなく手漕ぎのガレー船が主だった。しかしアタシがカディスを襲った時にガレー船がもはや新型帆船に敵わないということが明らかになった」

ラ「だからガレアス船っていう帆船とガレー船の混合型を使ったんだが…波の荒い英仏海峡じゃ不安定すぎて使えない代物だったし、スペイン艦隊の基本戦術である船上での白兵戦に持ち込むために多数の兵士が必要だった」

ラ「で、兵士を入れておくための大きな楼を船の前後に作った結果トップヘビーでさらに不安定になり、ただでさえ低い大砲の命中率がさらに落ちたばかりか航海性まで悪くなっちまってたのさ」

青葉「なるほど…大きな違いがあるんですね」




Francis Drake interview2