青葉「牛若丸さんと出会う前の弁慶さんについて教えて下さい!なんでも、幼名は鬼若と言って、かなりの乱暴者だったらしいんですが、具体的にはどんなことをしてたんでしょう?」
弁慶「具体的に、とな。ふむ…どこから語ればよいやら」
弁慶「では、長くなるが誕生から語るとしよう」
弁慶「弁慶の母、弁吉は紀州の国は田那部の郷士の娘であった。なかなか器量の良い人であったようだが、生憎二十歳を過ぎても結婚相手に恵まれなんだ」
弁慶「そのことを悲しんだ両親は、何とか娘に良い縁をと思い、出雲の国にある縁結びの神社に娘を参らせることに決めたのだ」
弁慶「こうして弁吉は紀州の国から遥々出雲の国は出雲路幸神社に向かった。さて、そんなこんなで到着した弁吉は7日7夜、欠かさず参詣を続けたところ、夢でとあるお告げがあった」
弁慶「『出雲の国は枕木山、その麓にある長海村で七年住めば願いはかなう』と。そのお告げを信じた弁吉は長海村に移り住み、三年たったころ山伏が村を訪れた」
弁慶「山伏曰く『私は近くの山に棲む山伏である。出雲の神のお告げにより弁吉の夫となることが決まった』と。その後、無事に弁吉は身籠った」
弁慶「だが、弁吉は他の女とはいささか違ったようで、つわりが始まると食べ物ではなく鋤を食べるようになってしまった」
青葉「鋤ですか?」
弁慶「うむ。村人の眼を盗み、鋤を食べ続けたがいかんせん小さい村のこと。こんな事がばれないはずがござらん」
弁慶「結局、十本目の中ほどまで食べたところで村の子供に見つかってしもうた。それ以降、弁吉が鋤を食べることは無くなり、仁平元年の三月三日、拙僧が生れ落ちることになる」
弁慶「さて、生まれたばかりの拙僧は他の赤ん坊とは違い、顔は鉄色、すでに髪と歯は生え揃っておった。生まれた赤ん坊がほかの子供と様相が違うことを見て取った弁吉は既にある井戸を使わず自ら新しく井戸を掘り、そこの水を生湯に使った。そして弁吉はこの赤ん坊に『弁太』と名付けたのだ」
弁慶「で、この弁太であるが大層いたずらが好きな子供であった。物を隠すは鋤は壊すはやりたい放題であったので、村人に憎まれてしまい庇いきれなくなった弁吉は弁太を中海に浮かぶ小島へと捨てざるを得なくなってしもうた」
弁慶「このままでは飢え死にするしかない弁太であったが、いかんせん脱出する術もなく方法もわからぬ。さて、どうすべきかと頭を抱えたところ、父である山伏が島を訪れた」
弁慶「弁慶はこの父から助言を得て、何とか脱出することに成功したのだ。しかしもはや村に居場所は無く、母のためにも村に残ることはできなかった弁太は修業をすることに決めた」
弁慶「弁太はこの時に『鬼若』と名を変えた。それまでの自分と決別するために」
弁慶「その後、枕木山にある華蔵寺、福原にある澄水寺、出雲にある鰐淵寺を巡り修業に明け暮れることとなる」
弁慶「修業を始めて数年たち、成長した鬼若はほとぼりが冷めたこともあり、帰郷することにした。修業を終えたときに鬼若は『弁慶』と名を変えたのだ」
弁慶「さて、母の元に戻りしばらくたったころ、弁慶は出雲の国は別所で鍛冶屋をしている叔父の元を訪れた。薙刀を作ってもらうためであったのだが、三年後出来上がった薙刀は大層よい拵えのもので、鉄すらも斬ることができた」
弁慶「そこで弁慶は叔父にまだ作れるのかと聞き、叔父は注文さえあればいくらでも作ると答えてしまった。こんな業物を他人にも作られてはかなわんと叔父を切り殺して出奔」
弁慶「さらに折悪く病に罹っていた母弁吉の体調も思うように良くならず、遺言として『菩提を弔おうと思うのなら、紀州国に行き、誕象一門を訪ねよ。そして、武士になるのなら田那部を、また法師になるなら武蔵坊と名乗るように』とだけ言い残し、亡くなってしまった」
弁慶「弁慶はこれを受け、長海神社に参詣した後に書状を残して京に上り、彼の源義経港との出会いを果たすことになるのである」
青葉「なるほど…ん?」
青葉「弁慶さんって、京で育てられたはずじゃ?」
弁慶「ははは…今の話は紀州にて伝えられている誕生説話でな、無論、京で生まれたとも言われておる。いかんせん、よく覚えておらぬのでな」
青葉「なるほど。では、最後に行きましょうか。弁慶さんと言えば、勧進帳も欠かせませんね!お話は有名なので割愛しますが、ちょっと解釈が分かれてるのが、関所の番人であった富樫左衛門さん。まんまと騙されたとも、本当は義経一行と分かっていて敢えて見逃したとも言われていますが、本当のところはどっちなんでしょう?」
弁慶「ふうむ。実際のところはどうかはかわからぬが、分かっていたように見えたが。少なくとも、拙僧には分かっていて見逃したように見えたのだ」
青葉「そうだったんですか。んー…今回は以上です。ありがとうございました!」
青葉「今回はですね、弁慶さんにお話を聞きました。同じ日本人でも、時代が違うと全く別の国の人みたいに感じますねえ」
青葉「では次回ですが、『エミヤ(アサシン)』さんを予定しています。お楽しみに!」
Benkei interview3