青葉「まずは…そのライオン耳?についてお聞きしましょう!エリザさんのツノは後世の言い伝えによって付け加えられた、というお話でしたが、アタランテさんのもそのクチですか?」
違う。思い出すのも忌々しい話だが、結婚後あの男と共にキュベレイの神殿に行ったときのことだ
あの男、私と結婚するために女神アフロディーテの助力を乞うたのはいいものの女神にお礼の供物をささげていなかった
青葉「あー…、何かわかっちゃった気がします。女神が怒っちゃったんですか?」
そうだ。結局女神によって理性を失い神殿内で私を押し倒して事に及び、その罰として獅子に変えられたのだ。この耳も、おそらくはその影響だろう
……本当に、思い出すだけで忌々しい
青葉「それは、何というか…。つ、次!次に行きましょう!」
青葉「えー、アタランテさんの伝承も数多く残っていますが、その中でもっとも有名なもののひとつ『カリュドンの猪狩り』についてお話を伺いたいと思います」
青葉「ではまず、『カリュドンの猪とは何か』についてお話を聞かせてください!」
あの魔獣のことか。さて、どこから話すべきか―――
カリュドンという国にオイネウスという王がいた。その国では毎年オリンポスの神々に供物をささげていたのだが、あるときアルテミスへの供物だけ捧げ忘れるという失態をおかしてしまった
当然アルテミスは怒り神罰として一体の魔物を送り込んだ。これが『カリュドンの大猪』だ
青葉「なるほど。で、その魔物を討つために『カリュドンの猪狩り』が催されたのですね!」
そういうことだ
青葉「…どんな姿だったんですか?」
猪と呼ぶにはあまりに巨大だった。全身から腐臭を放ちそこにいるだけで土地は汚染され、近づくだけで近くの作物は腐り落ちていく。まさに存在するだけで害をなす魔物だ
そして、ギリシャ全土の英雄豪傑勇者を集めてもなお、犠牲無しには倒すことができなかったのだ
青葉「恐ろしい魔物ですね…」
アルテミスが神罰として使わした魔物だぞ、そこら辺の獣とはわけが違う
青葉「で、でも!討伐できたんでしょう?だったらそれで一件落着ではないのですか?」
ああ、討伐はできた。できたが――――――
討伐後の論功行賞の際に事件が起きた。この狩りでそれまで誰も傷をつけることもかなわなかった魔獣を私が一番最初に射抜き、その後メレアグロスをはじめとする生き残った者たちの奮戦によって仕留められた
で、剥ぎ取った毛皮と頭部を一番槍の手柄として止めを刺したメレアグロスによって渡されたのだが、これに反駁する者が現れた
“アタランテは魔獣を傷つけてなどいない。真に血を流させたものが持つべきだ―――”
私は地位や名誉などには興味ない。だが、私の矢が命中していないなどという戯言はあまりにも心外だった
青葉「…それで、結局どうなったんですか?」
……無意味な殺し合いだ。私に恋をした者も、憎んだ者も、邪な思いを抱いていた者も皆無残に死に、私は残った毛皮を自分の物とした
私にはそれがアルテミスの啓示のように思えたのだ。
“恋をしてはならない。愛に堕ちてはならない。それは憎悪を生み出す代物でしかない”と
青葉「なるほど。それがアタランテさんの『純潔の誓い』なんですね」
青葉「あれ?でもアタランテさんは確か結婚してましたよね?」
この時点では“まだ”していないしするつもりもなかった
青葉「そういえばそうでしたね。では、話の流れもちょうどいいのでアタランテさんの結婚に関する話をば」
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