…こんな思いをするぐらいなら、別の世界なんて知りたくなかった。
僕はもう持っていないのに、全てを手に入れた別の自分なんか見たくなかった。
笑顔を貼りつけている自分の中にある悪意に、最後まで知らないふりをしていたかった。
ごめんね○○さん。僕はあなたに対しても酷い事を思ったよ。
「別の世界に○○さんが存在しなければいいのに」って。
だってそんなのずるいじゃないか。
家族もいて、サッカーも出来て。その上に○○さんが傍にいて。僕の憧れた世界に生きている“自分”がいるかもしれないなんて…、僕は死んでも許せない。
僕に家族がいないように、別の世界の“僕”だって…、平等に何かを失うべきでしょ?
僕には家族がいないけど○○さんがいる。
別の世界の“僕”は○○さんがいないけど家族がいる。そう思う事で気分が少しマシになった。
今の僕にしかないものがあるんだって、だからこの先も生きていけるって。僕にあって“僕”に無いものもあるんだって、そう思いたくて…、あなたの存在を否定した。
ごめんね、変な話をしちゃって。
でも、○○さんに僕の気持ちを知ってもらいたかった。そして謝りたかった。
あなたにもあなたの人生があるのに、隣に僕なんかが居てごめんね。
幸せにしてあげられなくてごめん。綺麗な愛情だけを注げなくてごめん。完璧じゃなくてごめんね。
あなたを好きになってしまってごめんね。
………それとね、もう一つだけ言わなかった事があるんだ。
あなたが気付かない事を祈って、ここに懺悔をするよ。
ごめんなさい。許してもらえるとは思ってない。
でもね、本当はいたんだよ。別の世界にも、今のあなたと同じ…そっくりそのままの○○さんが。
だけどもういない。夢の中で、僕が殺しちゃったから。
あなたが他の誰かに笑いかけているのが許せなかったから、持っていたナイフで胸を刺した。
あなたを殺した事に後悔はなかった。
だってこれはただの夢で、“僕”はあなたが死んだ事に気付いてもいないみたいだった。
当然だよ。だってあなたと“僕”は、まだ知り合ってすらなかったんだ。
だから気付かれる前に僕が殺した。あなただけは、○○さんだけは…、誰にも渡したくなかった。
他人ならまだしも、何もかもを持ってる“僕”にだけは、絶対に。
でも、あなたはいつもみたいに笑ってたよ。自分が死にそうなのに、僕に笑いながら謝ってた。
気付いてあげられなくてごめん、見つけてあげられなくてごめん。そう言って、優しく僕を抱きしめてくれた。顔を摺り寄せると僕の知っている○○さんの匂いがした。
殺したのは僕なのに、あなたの腕は暖かくて…、どうしようもなく安心したんだ。
僕、思うんだ。
ただの夢の世界だけど。
目が覚めれば儚く消えてしまうような…、僕の頭の中にある、ぼんやりとした世界だったけど。
きっとあの人は──、あなた自身だったんだろうなって。