その後のことはよく覚えていない。
打ち出してすぐに○○が透華から役満を和了った。
親になった衣は普段であれば連荘して点棒を稼ぐのに、恐怖に呑まれていてそれどころではなかった。
怯えながら切った牌を○○に振り込み、倍満。
そして○○が親になり、連荘。

「随分と退屈そうだな」

怯え、震え、自分の手元しか見ていなかった衣の耳にそんな言葉が飛び込んできた。
反射的に顔を上げれば対面の須賀は○○へと目を向けていた。
釣られるように見ると、本当に退屈そうな○○が牌を一つ、弄んでいた。

「……お前のせいだろ…」

不満そうに、須賀へとそう返す。

「酷い言い掛かりだな。能力を使うのは普通のことだ。それで勝手に心が折れたのならそれはそいつの心が弱かったからであって俺のせいにはなりえない」

心が、折れた。
その言葉が衣の頭にこびりつく。

「違うだろ、心が折れるのは折った奴の責任でもあるはずだぞ。フォローするなりするのが普通だと思うんだけどな」

「散々人の心を折ってきたお前が言うのか」

「………前はそうだったけど、今はちゃんとフォローするし、気をつけるようにしてる」

衣回想9。