そう思いながらツモ牌を切る。
誰にも聴牌の気配がないとなれば問題ない。はずだった。
「衣…少し、迂闊すぎますわ…ロン、8000の五本付けですわ」
その言葉を聞いて動きが止まってしまった。
なぜ透華が和了る?
誰一人として聴牌している気配はなかった。
衣が読み違えたのか?
「…こういう使い方もあるのか、なるほど」
なにやら納得したような呟きを漏らす須賀。
須賀が何かをした結果、ということか?
「名は体を表す…悪くないな」
そう呟いてフッと笑う須賀の姿に背筋が凍りつくような、名状し難い寒気がした。
それは透華も同じだったようで、須賀を険しい目つきで見据えながら、しかし、微かに震えているのが見て取れた。
そして気づく。
凡庸であったはずの須賀の気配が別のモノを孕んでいることに。
名状し難い悍ましさ、何も存在していないような虚無感、暖かな日差しのような安心感、神秘的な月明かりの優しさ。
それ以外にも同時に感じるはずのない様々な気配。
そのようなことがあるはずがない。
そう思えるのに、確かにそこに有り得ないモノが存在していた。
何故このような凡庸なはずの男からそんな気配がする?
これではまるで、化物と揶揄される己とは違う本物の化物ではないか。
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