「待って」

たった三文字の言葉だった。
言いたいことはあるが、言葉に出来ない。
○○は律儀に立ち止まって言葉の続きを待っている。

「……楽しかった。また、打てる?」

口下手な自分が恨めしかった。
出てくるのはそんな単調な言葉でしかない。

「来年、同じ舞台に来れば嫌でも」

そんな私の言葉に返ってきたのは楽しげな声色の言葉。
その言葉はまるで来年また打とう、また優勝してみろ。そう言っているように聞こえた。

「…うん、来年また。
次は、もっと強くなってるから。
……私は、勝ちたい」

言いたいことが言えないもどかしさのせいかそんな途切れ途切れの言葉しか出てこなかった。
ここに菫がいればきっとフォローしてくれたはず。
……ほぼ八つ当たりではあったが、菫がいないことを恨んでしまった。

「楽しみにしてる。
ただ、来年の千里山は甘くないぞ」

それだけを言って歩き出す○○を見送り、姿が見えなくなる頃、菫が迎えに来てくれた。

「その様子だと、存分に楽しめたようだな」

開口一番がそれだった。
確かに楽しめたが、来るのが少し遅い。

「何、○○なら何が言いたかったか理解しているさ。
あいつは、そういうやつだ」

…菫は○○のことを何か知っているらしい。

照との出会い10。