インターハイ個人戦優勝、強い相手との対局は楽しいものだったが何か物足りなかった。
おかしな話、団体戦でぶつかった千里山の選手と打っているときのほうが楽しかったかもしれない。

すっきりしないまま選手控え室に戻ると先輩たちはいなかったが、一人だけ待っている人がいた。

「優勝おめでとう、照。だが不満そうだな。
………ふむ、物足りなかったのか」

彼女、菫との付き合いはそう長い物ではないがなぜかこちらの言いたいことを理解してくれる。
口下手というか、あまりしゃべらない私には菫の存在はありがたい。
人に誤解を与えることのある私のフォローをいつもしてくれるからだ。

「うん、確かに楽しかったけど、何かが足りない…」

「先輩方に聞かれれば優勝でも満足しないのか、と言われそうだな。
千里山との対局の後はすっきりとしていたんだが…やはり、江口か…」

千里山の江口セーラ。彼女との対局はとても楽しかった。

「うん…でも、少し気になったことがある」

「気になったこと?」

「私と打っている最中、私じゃない誰かを見ていた気がする。
卓についている人じゃない、もっと先にいる誰か…
……まるで、菫と同じように…」

そう、楽しかったけれど、その瞳には私じゃない誰かが映っていた気がした。

照との出会い。