○○さんは…、いえ
○○くんは、私のことをどう思っているのかしら。
随分と高く評価してくれているみたいだけれど、私はあなたが思っているほどのものではないわ。
おっとりしていて、少し抜けている年上の女性
だとは思ってくれていないのでしょう?
…そう
あはは、さすがによく観察されちゃっているわね。
ええ、そう
長く物書きをしているとね、人の汚いところや醜いところが見えてくるの。
記者たちが取材やインタビューでこう言わせたいんだろうっていうのが透けて見えちゃうの。
同じような質問ばかり、私の作品のことよりも交友関係や恋愛関係の方にご執心なのね。
頑張って書き上げた作品を散々にこき下ろされたリ、自分が意図するものとは違うものを求められたり。
凛ちゃんが担当になってからはそれはずいぶんマシになったけれどね。
付き合いのあった人たちも私の作品が世に出始めると眼の色が変わったわ。
薄汚い、獲物を狙うハイエナのような眼。
印税は?映画化したらどれだけもらえるの?次はどんなものを書くの?サイン貰っていい?知り合いがファンだから会ってあげてくれない?たくさんもらってるんでしょ?ちょっと融通してくれない?
何もかもが嫌になってしまったの。
好きで始めたことなのに、前までは色々な物語が頭の中にどんどん思い浮かんできていたのに…
今では、なかなか筆が動かない。
だから私は、演じることにしたの。
フワフワした、いかにも天然で捉えどころがないような女性を。
だってその方が心が楽だもの。遅筆の免罪符にもなるしね。
…滑稽ね。人の汚いところを見たくないからって、己が自分自身を偽るような汚い人間になり果ててしまうなんて。
そんな私を
どうしてあなたは、見つけてしまったの?
わざわざ引きずり出そうとするの?
どんな顔で向かい合えばいいのか、わからない。
見つかってしまったら…、もうここにはいられない。
今までのようにはいかない。きっとあなたにも迷惑がかかる。
あなたには…面倒くさい人だなって…、思われたくない…。
…自分の、前では
無理しなくても、いい…?
だ、だって…きっと幻滅させちゃう…。
臆病で人の目ばかり気にして一人じゃなにも出来ないダメな女だって…。
そんな私も…
あなたは、受け入れてくれるの…?
み、見ないで…。
なんだか、すごく恥ずかしいから…。
いいの?
私を見失ったり、見放したりしない?
絶対?うそじゃない?神さまに誓える?
そう…、ありがとう…。
酒は微酔に飲み、花は半開に見るとはいうけれど
それでは、私は満足できなさそうかな…。
どうせ酔うなら、とことん酔いたい
…この歳で、本気になるなんてちょっと恥ずかしいけれど
あらためて、言いますね。
○○くん
先日言った、ラビットハウスを辞めるというのは撤回させてください。
自分勝手なのはわかっています。
それでも…
それでも、もう一度
私を、受け入れてくれますか?
本当の私を見守っていてくれますか…?
ここは、私にとっても大切な場所だから…。
ホワ翠