やはりすこし緊張してしまいますね。
愛読して下さっている方たちにプレゼントとして頂いたり、友達や凛ちゃんと交換したりはしますが、一方的に自分から誰かにあげるということはあまりないことです。
バレンタイン
恋する少女たちにとっては想い人に接近する甘いイベント。
これほど創作意欲が掻き立てられる日もありません。
わたしも作家の端くれとして参加しなくてはいけませんね!
それに、今年は個人的な理由もありますし。
「彼は、まだ来ていないようですね。」
お昼のシフトからバータイムのシフトの間の休憩時間でしょうか?
では先に皆さんに配ってしましましょう。
タカヒロさんとティッピーさん、彼が来るまでの間手伝ってくれているリゼさんの三人…もとい二人と一匹ですね。
「はい、いつもお世話になっております♪」
「ああ、すまないね青山くん」
「いえいえ♪こちらで働かせて頂いて色々体験することができたので。ティッピーさんもどうぞ?」
「いやいや、ティッピーは兎だぞ…。食べられないったら」
「あらぁそうでしたね~」
リゼさんにあきれられてしまいました。
ティッピーさんならあるいは!と思っていたのですが残念
「リゼさんもどうぞ。甘すぎない食べやすいものですよ」
「ああ、ありがとう。私も皆の分用意してたんだけど…、ココアが食べちゃってさ…」
「あらあら、ココアさんったら♪」
相変わらずここの女の子たちはかわいいですね~。
ぜひともその場で直接見たかったです。
リゼさんや千夜さんが一生懸命○○さんにアピールしているところなんて本当にかわいらしいです。10代の彼女たちにとって危険な香りのする年上のお兄さんというものはさぞ魅力的に映るのでしょうね。
そんなこんなで10分ほどでしょうか、皆さんと雑談に花を咲かせていると待ち人である彼がお店に戻ってきました。
「お、○○来たな!」
「○○くんお疲れ様、すまないが夜の方もよろしく頼むよ」
基本的に○○さんは無表情な方ですが、最近は少し表情が柔らかくなったように思えます。特にリゼさんと千夜さんに対してはまるで妹を見守るお兄さんのような優しい目をされていますね。
いつの間にか、彼もすっかりこのお店にとってなくてはならない方になっていたようです。
「ほ、ほら!おまえにやる!夜食にでも食べてくれ」
あら、リゼさんったら皆さんのいる前で大胆。
あれはきっと本命ですよ~。お姉さんにはわかります!
そんなリゼさんの気持ちに気付いているのかいないのか、軽い返事で返す○○さんにガックリうなだれながらリゼさんが帰っていきました。
リゼさん、諦めてはだめですよ!頑張って下さい!
「○○さん、お疲れ様です。今晩もよろしくお願いしますね」
私の言葉に軽くうなず○○さん。
なんでしょう、どこか視線が落ち着かないご様子です。
「では私はちょっと飲み物を補充してくるから、メニュー替えを頼めるかな?○○くんは机の整理と照明の設定を頼むよ」
「はい、わかりました」
…さて、時は来ましたね。
タカヒロさんがいらっしゃらない間に終わらせてしまいましょう。
「○○さん、はいどうぞ」
私は○○さんに用意していた包みを渡しました。
あら、少し表情が明るくなったような
「ビターめなものを選んでみました。宜しかったらめしあがってください♪」
喜んでくれたようで何よりです。用意した甲斐があったと言うものですね。
この後のことを考えて、少しでもマシになるのならば
「○○さん、ちょっといいですか」
「私ですね、あなたに伝えないといけないことがあるんです」
○○さんの表情は変わりません。
ひょっとしてもう気付いていらっしゃるのかもしれませんね。
とても、聡い方ですから…。
「まだ誰にも言っていないのですが」
「○○さん」
仕方ないですよね。
もう、どうしようもないことですから。
「私、来月いっぱいでここを辞めます」
バレンタイン翠