やっと窓の外の景色が見覚えのある風景に変わってきたわね。目的地まであと少しだわ。
なんでかしらね、前に来た時と同じルートで来たはずなんだけど

今日はなんだか、長く感じちゃった。

それだけ楽しみにしてるってことなのかしらね。
ココアに、みんなにまた会えることが。


「あいつと、また話せることが…」



……。


う、うわー…。
自分で言ってて気持ち悪いなぁ…。

そもそも話なら電話でもけっこうしてるし!
メールもしてるし、手紙だって書いてるし!



…ちょっとやだ待って

私もしかしたら重い女って思われてるかもしれない!
どんだけ連絡してくるんだよこの女メンドクセーとか思われてたらどうしよう!?
やだやだやだ!一人でテンション上がって勝手に舞い上がっちゃってた!
絶対めんどくさいって思われてるぅ…。




「でも…、話したいもん…」




うにゃあぁあぁあぁあんん!
私おかしいんじゃなかろうか!いい歳こいて乙女か!痛々しいわ!
でもでもしょうがないじゃない!
あいつってば口下手っぽいくせに話したら結構聞き上手だし、いろいろ面白いこと教えてくれるし…。
私が失敗しちゃって凹んでた時も下手に慰めるだけじゃなくて、わざと私を奮起させるようなこと言って元気にしてくれたし…。

その、声とか…割とイイカンジだし…。


だ、だってだってなんだもん!話したいんだもん!




「オーケー、一回落ち着きましょう…」

まわりの席の人がめっちゃこっち見てるわ。
落ち着きのない女性はみっともない、心はいつもクール・アズ・キュークよ、モカ

最初お母さんに騙されてあいつと引き合わされた時は本当に腹が立った。
私はまだ結婚する気なんてないし、そもそも相手くらい自分で見つける。
名前も知らないような男に会わされて『はいあなたたちこれから結婚を前提に付き合ってね』とかふざけてる以外に言葉がない。
あいつも一切知らされていなかったらしく、どうすればいいか混乱していたらしい。
兄貴のやりそうなことだとは言っていたけど、結構怒ってたわよね実際。
お兄さん夫婦はそろってかなり破天荒なようであいつもいろいろ苦労してるっぽかったわ。

お互いの家族の無茶ぶりを愚痴りながら木組みの街を散歩するのは結構楽しかった。思ったよりね。
そのあと二人でお店回ったり、食事したり…けっこう楽しい時間だったわけよ。
別れ際に連絡先交換して、それから今日まで、つい今しがたもだけど連絡を取り合ったりしてた。

なんだかお母さんにのせられたみたいでちょっと気に入らないけど
あいつといるっていうのは、悪くないかもしれない。


「お」

メッセージ受信してる。
あいつからだ、なんだろ。


『迎えに行く。駅近くなったら連絡を』


「もう、別に気を使わなくたっていいのに」

律儀というか真面目というか。
お店の仕事だってあるでしょうに、あいつってば






「…ふへ」

メール画面を見てたら、勝手に顔がニヤけてしまう。
あかんダメだこれ




好きです、はい

いいよもう認めますよ。
ぶっちゃけ初めて会った時からちょっといいなって思いましたよ。
太い二の腕とか鎖骨とかめちゃくちゃドキドキするっての。
自分がこんなにチョロいとは信じたくなかったけど、もうどうでもいいわ。


会ったら、告白しよう。


しかも偶然たまたま今日はバレンタインデーだしね。
ココアがお世話になってるだろうし、お礼もかねてチョコとか渡しちゃったりするのも悪くないんじゃないかな的な考えをしてみたりするわけで。
一週間前から試作に試作を重ねてカンペキな一品を仕上げてやったわ。

準備はバッチリ、告白のシミュレーションもお風呂でのぼせるまでやった。
あとは勇気を出して踏み出すだけよ!
待ってなさい、○○!





「…はやく会いたいなぁ、にゅふふ~♪」
バレンタインモカ