男子学生A「だ、だめかな?ちょっとだけ!5分だけでいいから!」
「私早く帰らなきゃいけないから、ごめんね」
男子学生A「あ!ま、まって!」
男子学生B「諦めろ諦めろ。だから言ったんだ、お前じゃ無理だってよ」
男子学生C「イケメンって有名なとなりのクラスのやつもフラれたって言ってたぜ」
男子学生A「くそぅ…。で、でも会話はできたぜ!あの『姫』と会話できただけでもありがてぇよ!」
男子学生B「やっぱ超かわいいよな、『姫』は。ここいらの学区の中じゃダントツ1位まちがいなしだわ」
男子学生C「同じ学校だったら毎日幸せだろうなぁ…。まぁ俺たちみたいなのじゃどうこうなるのは絶対無理だろうけど」
男子学生B「なんたって百人斬りの『姫』だしな」
男子学生A「もういっそ見てるだけでもいいや、俺…」
男子学生C「あのちょっと気だるげな雰囲気がいいよなぁ」
男子学生B「わかる!なんかちょっと浮世離れしてる感じな!」
男子学生A「あああ!チノちゃん好きだああ!!」
「…だる」
なんか最近ああいうの増えたな、すっごい迷惑。
昨日もその前も、家に帰る途中はほぼ毎日これだもん。やってられない。
登下校の時間くらい静かにして欲しいよね。
だから男子って嫌い。ギャーギャーうるさいし。女子校にしてよかった。
「こんなことなら、やっぱり兄さんにお迎え頼めばよかったかな」
あ、でも今日は本屋寄りたかったし兄さんもお店準備してるんだっけ。
じゃあどのみち無理だったな、残念。
でもまぁきっと私が迎えに来てって言ったら絶対来てくれるけどね、あの人。
今年で私は17になった。
高校に進学して、学年も上がったけど別段私の周りはそんなに変化はない。
ココアさんは相変わらずそそっかしいし、リゼさんも相変わらず脳筋。
二人とも大学は違うけど変わらずうちでバイトとして働いてくれてる。
リゼさんはたまに兄さんのお店手伝ってるけど。
千夜さんは腹黒いし、シャロさんに至っては私の方がずっと成長してるくらい。
この前も千夜さん兄さんにちょっかいかけに行ってたな。どうせかわされるのにね。
なかば諦めかけていたけど、身長も体つきも高校に入ってから順調に成長してくれて今ではそれなりに自信も持っている。
まぁリゼさんとか千夜さんとかには敵わないけど。
あの二人はおかしいからしかたないよね。
今年もミスキャンパスのトロフィー貰うんだろうな。
兄さん、○○さんは独立して自分のお店を開いた。
ラビットハウスから少し離れたところで小さなバルをやっている。
といってもまだいろいろ片付いてないらしくて、毎週決まった日時にしか開けてないみたい。
それでもお客さんはある程度来てくれているようで、前にお邪魔した時もほぼ満席だった。
色々な国の美味しい料理と通好みなお酒が人気の理由らしい。
私は手羽餃子がいちばん好きだな。
でも、私はきっと兄さんの人柄も人気に一役買っているんだと思う。
たくさんつらい経験をして、いろいろ苦労もした上でやっと今を手に入れた人だ。
人としての厚みが違う。会話の引き出しも多いから話していても楽しい。
あの人はそんな魅力をもった人だ。
相談や話を聞いてもらいたがる人、聞きたがる人も多いだろう。
ラビットハウスをやめるといった時はすごく腹が立ったし裏切られたような気分だった。
別にずっとうちで働くとは言ってなかったし、将来お店を持ちたいとも言っていた。
でも気に入らなかったんだ。
あの人はずっとうちで働くものだと勝手に思いこんでいた。
だからこれは私の勝手な思い込み、自分勝手な考えだ。
「わかっていたんだけど。認めたらなんとなく負けたみたいでイヤだったんだよね」
歳の近い男の子はみんなガキっぽくてきらい。
流行りの髪形に、流行りの格好に、安っぽい自尊心とからっぽな中身。
自分が大人だとは言わないけど、でもやっぱり話していてもつまらない。
マヤとメグは特別だけどね。
「…今日はちょっとおしごとさぼっちゃおうかな」
本屋に寄るつもりだったけど、また今度でいいや。
今はなんだか兄さんのとこに行きたい気分。
まだオープンはしてないだろうし、しかたないから準備も手伝ってあげよう。
あいかわらずコーヒーは淹れるの下手っぴだしね。
兄さんのことが好き
それが人としてなのか、男の人としてなのか
そんなのどっちでもいい
あの人と過ごした時間はたしかに私を変えた。
良い意味でも悪い意味でも。
「あの歳で私に手出したら捕まるのかな。それはそれで面白そうだけど」
「リゼさんでも千夜さんでもおとせなかったんだよね。ちょっと試してみようかな」
こんなくだらないことをボーっと考えながら兄さんのお店を冷やかしに行くのが、最近の楽しみだ。
特に大きな出来事もない。
あの人との関係が変わるわけでも、変えたいわけでもない
変わらないこんな毎日が私はすき。
チノさんじゅうななさい